監査論
監査意見の四区分は「重要性×広範性」の二軸で判定する—虚偽表示なら限定付適正→不適正、範囲制約なら限定付適正→意見不表明。この判定マトリクスと二重責任の原則が監査論の最重要骨格である。
監査論の出発点は、財務諸表監査の目的と監査人の責任の理解である。監査基準(企業会計審議会「監査基準」)の第一 監査の目的によれば、財務諸表監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。ここで重要なのは、監査意見は財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて「合理的な保証」を得たとの監査人の判断を含むという点であり、絶対的保証ではないことが繰り返し出題される。また、財務諸表の作成責任は経営者にあり、監査人の責任は意見表明にあるという「二重責任の原則」は、監査報告書の記載事項とも関連して頻出論点である。
監査の実施プロセスは、リスク・アプローチの理解が核心となる。監査基準および監査基準報告書(監基報)315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」(2021年改正後の名称。本教材は改正後の監基報に準拠する)・監基報330「評価したリスクに対応する監査人の手続」が定めるとおり、監査人は固有リスクと統制リスクを結合した重要な虚偽表示リスクを財務諸表全体レベルとアサーション・レベルの二つのレベルで評価し、発見リスクの水準を決定して監査手続を立案する。監査リスクは「重要な虚偽表示リスク×発見リスク」として整理され、重要な虚偽表示リスクが高いと評価されるほど発見リスクを低く抑える必要があり、実証手続の範囲拡大・時期の期末への移動・より証明力の強い手続の選択が求められる。さらに、会計上の見積りや収益認識のような特別な検討を必要とするリスク(特別な検討を必要とするリスク=significant risk)には、内部統制の理解と実証手続の実施が必須となる点も問われる。
監査証拠と監査手続に関しては、監基報500「監査証拠」が基礎となる。監査証拠は十分性(量的尺度)と適切性(質的尺度=適合性と証明力)を満たす必要があり、一般に、企業外部の独立した情報源から入手した証拠は内部証拠より証明力が強く、監査人が直接入手した証拠は間接的に入手した証拠より証明力が強い。具体的な監査手続としては、実査・立会・確認・質問・観察・閲覧・再実施・再計算・分析的手続があり、確認(監基報505)は売掛金や銀行預金残高の検証に用いられる外部証拠入手手続として頻出である。また、分析的手続(監基報520)はリスク評価手続として必須で、実証手続としては選択的、監査の最終段階における総括的吟味としては必須という三局面の位置づけの違いが問われる。試査(サンプリング)については監基報530が規律し、サンプリングリスクとノンサンプリングリスクの区別も出題実績がある。
監査意見と監査報告書は最頻出領域である。監査基準第四 報告基準により、監査意見は無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明に区分される。区分の判定軸は二つあり、(1)財務諸表に重要な虚偽表示がある場合には、重要だが広範でなければ限定付適正意見、重要かつ広範であれば不適正意見、(2)重要な監査手続を実施できず十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合(監査範囲の制約)には、重要だが広範でなければ限定付適正意見、重要かつ広範であれば意見不表明となる。この「重要性」と「広範性(pervasive)」の二軸マトリクスは確実に押さえる。さらに2018年監査基準改訂で導入された「監査上の主要な検討事項」(KAM、監基報701)は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から特に重要と判断した事項を監査報告書に記載する制度であり、KAMの記載は意見表明とは別個のものであって限定意見の代替とはならない点がひっかけとして出題される。
継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)は監基報570が規律する。経営者は継続企業の前提について評価する責任を負い、監査人はその評価の妥当性を検討する。継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象又は状況が存在し、重要な不確実性が認められる場合、財務諸表に適切な注記がなされていれば無限定適正意見を表明した上で監査報告書に「継続企業の前提に関する重要な不確実性」の区分を設けて記載し、注記が不適切であれば虚偽表示として限定付適正意見又は不適正意見となる。「重要な不確実性があれば直ちに意見不表明」ではない点が典型的なひっかけである。また、不正リスク対応については監基報240および2013年設定の「監査における不正リスク対応基準」があり、経営者による内部統制の無効化リスクへの対応、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況の識別時の手続などが問われる。
品質管理と監査人の独立性も体系的理解が必要である。品質管理基準(企業会計審議会「監査に関する品質管理基準」)および品質管理基準報告書第1号により、監査事務所は品質管理システムを整備・運用する責任を負い、2021年改訂でリスク・アプローチに基づく品質管理(品質目標の設定→品質リスクの識別評価→対応)へ移行した。独立性については公認会計士法が規律し、同法24条は自己又は配偶者が役員等である会社等の財務書類の監査証明を禁止し、24条の2は大会社等に対する監査証明業務と同時提供が禁止される非監査業務を定める。ローテーション(連続関与の制限)については、同法24条の3(監査法人については34条の11の3)が大会社等の監査における業務執行社員の連続関与を原則として7会計期間に制限し、さらに大規模監査法人が行う上場会社等の監査における筆頭業務執行社員等については、連続5会計期間(その後5会計期間のインターバル)というより厳しい制限が課される(公認会計士法34条の11の4・関連府令等)。「筆頭業務執行社員等も7会計期間」と読ませる肢は誤りであり、原則7年と筆頭5年を書き分けて記憶する。精神的独立性と外観的独立性の区別、監査法人の社員資格(公認会計士法34条の4)なども短答で問われる。
内部統制監査と四半期・期中レビューも試験範囲である。金融商品取引法24条の4の4は上場会社等に内部統制報告書の提出を義務づけ、同法193条の2第2項によりその内部統制報告書は公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない(内部統制監査)。内部統制監査は財務諸表監査と一体として同一の監査人が実施し、経営者の作成した内部統制報告書に対する意見表明であって、内部統制それ自体の有効性に直接意見を表明するダイレクト・レポーティングは採用されていない点が頻出のひっかけである。内部統制の基本的要素は、統制環境・リスクの評価と対応・統制活動・情報と伝達・モニタリング・IT への対応の6つ(内部統制府令の基準)であり、米国COSOの5要素に「ITへの対応」を加えた日本独自の枠組みである。開示すべき重要な不備が存在しても、その事実を内部統制報告書に適正に記載していれば内部統制監査意見は無限定適正となり得る点も重要である。
最後に、監査役等とのコミュニケーション(監基報260)、経営者確認書(監基報580)、後発事象(監基報560)、グループ監査(監基報600)といった個別論点を整理する。経営者確認書は、経営者がその責任を果たした旨等について監査人に提出する「書面による陳述」であり(監基報580)、それ自体では十分かつ適切な監査証拠とならず、他の監査証拠を代替できない。後発事象は、期末日後に発生し財務諸表の修正を要する修正後発事象と、注記を要する開示後発事象に区別され、監査報告書日までは監査人に能動的な手続実施義務があるが、監査報告書日後は義務を負わず、事実を知った場合に対応する。グループ監査ではグループ監査チームが構成単位の監査人の作業に関与し、監査意見に対する責任はグループ監査チームの監査人が単独で負う(分担責任ではない)。これらは条文・基準の正確な文言レベルで正誤を問われるため、監基報の規定に即して記憶することが合格の鍵となる。
この章の問題から3問
財務諸表監査における監査人の意見は、財務諸表に重要な虚偽表示がないことを絶対的に保証するものである。
正解 ×(誤り)
監査基準第一(監査の目的)により、監査意見は重要な虚偽表示がないことについて「合理的な保証」を得たとの判断を含むにとどまり、絶対的保証ではない。試査に基づく監査の固有の限界(監基報200)がその理由である。
監査上の主要な検討事項(KAM)を監査報告書に記載することは、個別の事項について限定付適正意見を表明することの代替となる。
正解 ×(誤り)
監基報701により、KAMの記載は監査意見とは別個のものであり、限定付適正意見・不適正意見・意見不表明の代替とはならない。KAMは意見に影響しない情報提供であることが明記されている点がひっかけ。
継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合、財務諸表に適切な注記がなされていても、監査人は意見を表明してはならない。
正解 ×(誤り)
監基報570により、重要な不確実性が適切に注記されていれば無限定適正意見を表明し、監査報告書に「継続企業の前提に関する重要な不確実性」区分を設けて記載する。意見不表明となるのは注記の適否ではなく、評価不能等で十分かつ適切な監査証拠を入手できず、その影響が重要かつ広範な場合である。
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公認会計士(短答式)の他の章
本ページの講義ノートと問題は、各試験の出題範囲に基づきAIが作成し、法令・基準に照らして別のAIレンズで敵対的に検証したものです(検証プロセス)。法改正等で誤りが見つかった場合は随時修正します。合格を保証するものではありません。