社会福祉の原理と政策(歴史・思想・福祉政策)
エリザベス救貧法からベヴァリッジ報告、恤救規則から社会福祉法・地域共生社会までの年号・法令・人名の対応関係と、ロールズ・セン・ティトマス・エスピン=アンデルセン各理論の区別が本章の得点源である。
社会福祉の原理と政策は、欧米と日本の福祉の歴史、福祉の思想・哲学、福祉政策の理論を横断的に問う科目である。歴史の起点はイギリスのエリザベス救貧法(1601年)であり、教区を単位に貧民を有能貧民・無能貧民・児童に分類し、労働能力のある者には就労を強制した。1834年の新救貧法(改正救貧法)は、救済水準を独立自活する最下層労働者の生活水準以下に抑える劣等処遇の原則、ワークハウス収容を原則とする院内救済、全国統一の処遇という三原則を掲げた点が繰り返し出題される。19世紀後半には民間活動が発展し、1869年にロンドンで設立された慈善組織協会(COS)は濫救・漏救の防止を目的に友愛訪問を展開してケースワークの源流となった。1884年にはバーネット夫妻らにより世界初のセツルメントであるトインビー・ホールがロンドンに設立され、知識人が貧困地域に住み込む隣保事業が広がった。COSとセツルメントの目的・方法の違いは頻出の対比論点である。
貧困の科学的調査も定番論点である。ブースはロンドン調査『ロンドン民衆の生活と労働』で貧困線の概念を用い、市民の約3割が貧困状態にあり、その主因は個人の怠惰ではなく不安定就労や低賃金など社会的要因にあることを示した。ラウントリーはヨーク市の調査で、栄養学的基準に基づく第1次貧困・第2次貧困を区別し、労働者の生涯に貧困期が繰り返し訪れるライフサイクル論を提示した。ウェッブ夫妻は、国家が保障すべき最低限の生活水準としてナショナル・ミニマムの概念を提唱し、救貧法体制の解体を主張した。1942年のベヴァリッジ報告『社会保険および関連サービス』は、窮乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨人悪」への攻撃を掲げ、均一拠出・均一給付の社会保険を制度の中核に据え、公的扶助(国民扶助)はこれを補完するものと位置づけた。同報告が戦後イギリス福祉国家の設計図となり、「ゆりかごから墓場まで」と称される体制につながった流れまで押さえたい。
日本の公的救済は恤救規則(1874年)に始まる。同規則は救済を「人民相互ノ情誼」に委ねることを前提とし、対象を身寄りのない「無告ノ窮民」に限定した制限的なものであった。救護法(1929年制定・1932年施行)は市町村長を救護機関とする公的救護義務を明確にしたが、労働能力のある困窮者は原則対象外であり、被救護者の選挙権停止など権利性は乏しかった。戦後は旧生活保護法(1946年)を経て、1950年の現行生活保護法で国家責任・無差別平等・保護請求権と不服申立て制度が確立した。生活保護法・児童福祉法(1947年)・身体障害者福祉法(1949年)のいわゆる福祉三法に、精神薄弱者福祉法(1960年、現・知的障害者福祉法)、老人福祉法(1963年)、母子福祉法(1964年、現・母子及び父子並びに寡婦福祉法)を加えた福祉六法体制が1960年代に成立した。1961年には国民皆保険・皆年金が実現し、老人医療費無料化等が行われた1973年は「福祉元年」と呼ばれたが、同年の石油危機を契機に福祉見直し論へ転じた。
1990年の福祉関係八法改正では、在宅福祉サービスが法定化され、老人・身体障害者の施設入所措置権が町村へ移譲されるなど、市町村中心の実施体制へ再編された。1997年制定の介護保険法(2000年施行)を経て、2000年の社会福祉基礎構造改革により社会福祉事業法は社会福祉法へ改正・改称され、行政処分による措置から利用者と事業者の対等な契約への転換が図られるとともに、個人の尊厳の保持を旨とする福祉サービスの基本的理念(同法第3条)と地域福祉の推進(同法第4条)が明記された。2017年改正では市町村による包括的な支援体制の整備(第106条の3)が規定され、2020年改正では、地域福祉の推進は住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら参加し共生する地域社会(地域共生社会)の実現を目指して行われなければならない旨が第4条第1項に規定されたほか、属性を問わない相談支援・参加支援・地域づくりに向けた支援を一体的に行う重層的支援体制整備事業(第106条の4)が市町村の任意事業として創設された(2021年施行)。市町村地域福祉計画の策定が努力義務(第107条)である点も確認しておく。
福祉の思想では人名と概念の対応が問われる。ロールズは『正義論』(1971年)で功利主義を批判し、無知のヴェールの下で選択される「公正としての正義」を構想して、社会的・経済的不平等は最も不遇な人々の利益を最大化する場合にのみ許されるとする格差原理を示した。センは、所得や財の保有量ではなく、人が価値ある生を選び取る自由に着目するケイパビリティ(潜在能力)アプローチを提唱し、貧困をケイパビリティの剥奪として捉え直した。タウンゼントは、その社会で標準的な生活様式や社会活動への参加が資源の不足により妨げられる状態を相対的剥奪と定義し、相対的貧困概念を確立した。ノーマライゼーションは、デンマークのバンク=ミケルセンが知的障害者福祉の理念として1959年法に結実させ、スウェーデンのニィリエが1日・1週間・1年の生活リズムなど8つの原理に整理し、アメリカのヴォルフェンスベルガーがソーシャル・ロール・バロリゼーションへと発展させた。提唱者の国籍と貢献内容の組合せの入替えがひっかけの定番である。
福祉政策の理論ではティトマスとエスピン=アンデルセンが二大頻出である。ティトマスは、福祉の供給が社会福祉(社会サービス)・財政福祉(税制上の優遇)・企業福祉(職域福祉)の3経路でなされるとする福祉の社会的分業論を示し、福祉国家を残余的福祉モデル、産業的業績達成モデル、制度的再分配モデルの3類型に整理した。残余的福祉モデルは市場と家族による充足を基本とし国家の役割を補完的なものにとどめる点で、国家が普遍主義的に再分配を行う制度的再分配モデルと対置される。エスピン=アンデルセンは『福祉資本主義の三つの世界』(1990年)で、脱商品化と階層化を指標に、アメリカに代表される自由主義レジーム、ドイツなど大陸欧州の保守主義レジーム、スウェーデンなど北欧の社会民主主義レジームの3類型を提示した。日本は自由主義と保守主義双方の要素を併せもつとされる。給付対象の設定をめぐる普遍主義と選別主義の対立軸、資力調査(ミーンズ・テスト)に伴うスティグマの問題もあわせて整理しておきたい。
現代の政策概念としては、貧困・格差の測定と社会的排除・包摂を押さえる。相対的貧困率は、等価可処分所得が中央値の50%(貧困線)に満たない者の割合であり、平均値ではなく中央値を用いる点が問われる(OECD基準・国民生活基礎調査)。社会的排除は、所得の不足にとどまらず、雇用・教育・住宅・社会関係・政治参加など多次元の不利が累積して社会への参加が阻まれる過程に着目する概念であり、1980年代のフランスに起源をもちEUの政策概念として展開した。日本では2000年の「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書が、つながりの再構築と社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)を政策理念として提起した。この流れは、制度・分野の縦割りを超えて支える地域共生社会の実現や、生活困窮者自立支援法(2013年制定・2015年施行)による第2のセーフティネットの整備へと連なっており、歴史・思想・政策を一本の線として理解することが本章攻略の要点である。
この章の問題から3問
1834年のイギリス新救貧法(改正救貧法)では、救済の水準を独立自活している最下層の労働者の生活水準より低く抑える「劣等処遇の原則」が採用された。
正解 ○(正しい)
正しい。新救貧法(1834年)は、劣等処遇の原則、ワークハウス収容を原則とする院内救済、全国統一の処遇の三原則を採用した。エリザベス救貧法(1601年)の内容(貧民の分類と就労強制)と入れ替えて出題されるのが典型的なひっかけなので、両法の内容を年号とセットで区別すること。
ベヴァリッジ報告(1942年)は、資力調査に基づく公的扶助を社会保障制度の中核に据えるべきであると勧告した。
正解 ×(誤り)
誤り。ベヴァリッジ報告『社会保険および関連サービス』(1942年)は、均一拠出・均一給付の「社会保険」を制度の中核とし、公的扶助(国民扶助)はあくまで社会保険を補完するものと位置づけた。「中核」を公的扶助にすり替えるのが本問のひっかけであり、五つの巨人悪(窮乏・疾病・無知・不潔・無為)とあわせて頻出である。
恤救規則(1874年)は、救済を人民相互の情誼(じょうぎ)に委ねることを前提とし、公的救済の対象を身寄りのない「無告ノ窮民」に限定していた。
正解 ○(正しい)
正しい。恤救規則(明治7年太政官達第162号)は「済貧恤窮ハ人民相互ノ情誼ニ因テ」行うことを前提に、対象を独身で労働能力のない極貧者など「無告ノ窮民」に限定した制限主義の規定であった。国家責任や受給権を認めた救護法(1929年)・現行生活保護法(1950年)と混同させるのが定番のひっかけである。
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本ページの講義ノートと問題は、各試験の出題範囲に基づきAIが作成し、法令・基準に照らして別のAIレンズで敵対的に検証したものです(検証プロセス)。法改正等で誤りが見つかった場合は随時修正します。合格を保証するものではありません。